1番ホールのティーグラウンドに立つと、夜露を含んだ芝と、湿った黒土の香りがふわりと鼻をかすめました。
それはまるで、これから始まる18ホールの壮大な物語の序章を告げる、大地の深呼吸のようです。
スコアを追うな、ストーリーを歩け。
はじめまして、ゴルフライターの芝山景介と申します。
元々は公園や庭園を設計するランドスケープデザイナーとして土に触れ、その後20年間、キャディマスターとして延べ2万人以上のゴルファーと共にコースを歩いてきました。
そんな私が今日、ご案内したいのは、埼玉の名門「オリンピックナショナルゴルフクラブ」です。
この記事を読めば、あなたのゴルフ観はきっと変わるはずです。
単なる攻略対象だったコースが、設計者の意図と自然が織りなす、一編の美しい物語に見えてくることをお約束します。
さあ、私と一緒に、誰も語らなかったこのコースの真の魅力へ、散策に出かけましょう。
オリムピックナショナルGCの口コミに関しては「オリムピックナショナルゴルフクラブ サカワコースのクチコミ一覧 – じゃらんnet」も参考になりますよ。
目次
大地の声を聞く:世界的巨匠たちの設計思想の対話
オリンピックナショナルゴルフクラブの最大の魅力は、個性の全く異なる2つのコース、EASTとWESTが存在することです。
それはまるで、世界的巨匠たちが時を超えて、この大地をキャンバスに対話をしているかのよう。
それぞれの声に、静かに耳を傾けてみましょう。
EASTコース:ペリー・ダイが描いたイングランドの丘
EASTコースを設計したのは、あのピート・ダイの血を引くダイ・デザイン社です。
彼らがこの地に描いたのは、「オールド・スコティッシュ・デザイン」という思想。
その名の通り、まるで古き良きイングランドの丘陵地帯を歩いているかのような、優美で柔らかな曲線がコース全体を支配しています。
デザイナー時代の私から見ても、そのマウンドの使い方は見事と言うほかありません。
フェアウェイのうねりは、決してプレイヤーを拒むものではなく、むしろ「さあ、こちらへどうぞ」と、次の一打へのルートを優しく示唆してくれるのです。
しかし、その優しさの中に、池や深いバンカーといった戦略的な問いかけが巧みに隠されている。
美しさと厳しさが同居する、まさに詩情豊かなコースと言えるでしょう。
WESTコース:ジム・ファジオが仕掛けた”ファジオマジック”
一方、2017年に大改修されたWESTコースは、現代の名匠ジム・ファジオの魔法がかけられています。
「ファジオマジック」と称される彼の設計は、ダイナミックで、ドラマチック。
EASTコースが詩であるならば、WESTコースは壮大な交響曲のようです。
かつてデザイナーだった頃、私は土地の声を無視した設計で手痛い失敗をしたことがあります。
しかしファジオは、この土地が持つポテンシャルを最大限に引き出しました。
3つの9ホール(アザレア、カメリア、シバザクラ)はそれぞれに表情が異なり、訪れるたびに新しい発見と挑戦を与えてくれます。
自然の地形を大胆に活かしながら、プレイヤーの挑戦意欲を掻き立てる。
これこそが、彼が世界中で評価される理由なのです。
2万人の記憶から選ぶ、心を震わす珠玉の景観
20年間、私はこのコースで数えきれないほどのドラマを見てきました。
歓喜、絶望、そして静かな感動。
その記憶の中から、特に私の心を捉えて離さない2つのホールの景色をご紹介します。
風景画に溶け込む、EAST17番ショートホール
池に囲まれた美しいショートホール。
多くのゴルファーは、ティーグラウンドに立った瞬間、水のプレッシャーに心を奪われてしまいます。
しかし私は、このホールを「設計家が仕掛けた美しき罠」と呼んでいます。
ある日、ご一緒した老紳士がティーショットの前にこう呟きました。
「芝山さん、この景色はまるで一枚の絵画だね。スコアなんて、どうでも良くなってしまうよ」
その方は力みなく振り抜いたショットで、見事ボールをピンそばにつけました。
このホールで大切なのは、池と戦うことではありません。
目の前に広がる風景画に、自分自身が溶け込んでいくような感覚で、静かにクラブを振ることなのです。
雄大な打ち下ろし、WESTシバザクラ1番ホール
このコースを象徴する、雄大な打ち下ろしのスタートホール。
誰もがその開放感に、思わず「おおっ」と声を上げます。
もちろん、その爽快感も素晴らしいのですが、私がこのホールで感じるのは、設計者が込めた「物語の始まり」としてのメッセージです。
これから始まる冒険への期待と、少しの不安。
2万人のゴルファーが、様々な想いを胸にこのティーグラウンドから第一打を放っていく姿を、私はずっと見てきました。
この場所に立つと、まるで舞台の幕が上がる直前の高揚感に包まれるのです。
ここは単なるスタートホールではなく、あなたという主人公が紡ぐ、18ホールの物語のプロローグなのです。
スコアカードには書かれない、コースとの対話術
ゴルフの神様は、細部に宿るんですよ。
設計者がコースのあちこちに隠したメッセージを読み解くことができれば、あなたのゴルフはもっと豊かになります。
「忠実な騎士」か「優しき案内人」か?バンカーの本当の意味
バンカーを、単なる障害物だと思っていませんか?
それは大きな間違いです。
例えば、グリーンを守るように配置されたガードバンカー。
あれはまるで、グリーンというお姫様を守る「忠実な騎士」のようです。
彼らの存在が、グリーンの尊さを際立たせているのです。
一方で、フェアウェイの真ん中にぽつんと存在するクロスバンカー。
あれは、設計者からの「優しき案内人」です。
「あちらは危険ですよ、こちらが安全なルートですよ」と、言葉なく語りかけてくれている。
バンカーの意味を理解すれば、彼らは決して憎い敵ではなく、コースとの対話を助けてくれる良き友となるでしょう。
グリーンが囁きかける言葉の聞き方
グリーン上の複雑な起伏(アンジュレーション)は、設計者がプレイヤーに与えた最後の問いかけです。
「さあ、ここまで来たあなたなら、この謎が解けますか?」と。
パッティングで大切なのは、ラインを読む技術だけではありません。
グリーンに上がり、ゆっくりと全体を眺めてみてください。
水はどこへ流れていくのか。
太陽はどちらから光を注いでいるのか。
自然の摂理に耳を澄ませば、グリーンは必ずあなたに答えを囁きかけてくれます。
2万人のパットを見続けた私が、自信を持ってお伝えします。
歩いたからこそ分かる、クラブハウスと食事の愉しみ
プレーが終わった後も、物語は続きます。
クラブハウスやレストランにも、設計者の思想とクラブの歴史が息づいているのです。
EASTの重厚とWESTのモダン、二つの顔を持つクラブハウス
EASTのクラブハウスは、時を重ねたレンガが美しい、重厚で落ち着いた空間です。
プレーの興奮を静かにクールダウンさせ、今日のラウンドをゆっくりと振り返るのにふさわしい場所。
対照的に、WESTのクラブハウスはガラス張りのモダンで開放的なデザイン。
仲間たちと次の挑戦について語り合う、明るい活気に満ちています。
この二つのクラブハウスは、まさにコースの性格そのものを体現しているのです。
元デザイナーの視点から見ても、この一貫した世界観の構築は見事と言うほかありません。
名物ビーフカレーに隠されたストーリー
EASTのレストランで長年愛されている名物のビーフカレー。
ただ美味しいだけではありません。
私がキャディマスターをしていた頃、当時の料理長からこっそり聞いた話があります。
このカレーは、初代支配人が「プレーで疲れた体を芯から温め、明日への活力を与えるような食事を提供したい」という想いから考案されたものだそうです。
じっくり煮込まれた牛肉と、スパイスの奥深い香り。
その一皿には、クラブの歴史と、ゴルファーへの温かいおもてなしの心が溶け込んでいるのです。
よくある質問(FAQ)
最後に、私がお客様からよくいただく質問にお答えしますね。
Q: 初心者でもオリンピックナショナルGCを楽しめますか?
A: もちろんです。
スコアを追うのではなく、まずはコースの美しさを「歩いて愉しむ」ことから始めてみてください。
私がご案内するなら、まずは景観の開けたホールを選び、設計家の意図を一緒に読み解く散策からご提案します。
難しいホールも、物語のスパイスとして愉しめますよ。
Q: EASTとWEST、どちらのコースがおすすめですか?
A: それは「どんな物語を体験したいか」によります。
伝統的な丘陵コースで自然との静かな対話を愉しみたいならEAST、ダイナミックで近代的な設計に挑戦し、心を揺さぶられたいならWESTがおすすめです。
2つのコースは、まるで巨匠たちの対話のようです。
両方を体験することで、このクラブの本当の奥深さが分かります。
Q: ドレスコードは厳しいですか?
A: 名門コースとしての品格は大切にしていますが、過度に堅苦しく考える必要はありません。
大切なのは、コース(自然)と設計者、そして同伴プレーヤーへの敬意です。
来場時にジャケットを着用するなど、基本的なマナーを守れば、クラブはいつでも温かく迎えてくれますよ。
Q: 芝山さんにとって、このコースの最大の魅力とは何ですか?
A: 「いいコースは、歩くだけでいい。」
この言葉に尽きます。
2万人のゴルファーと歩きましたが、何度訪れても新しい発見がある。
それは、設計者の深い哲学と、季節ごとに表情を変える自然が、常に新しい物語を紡いでくれるからです。
Q: プレー料金はどのくらいですか?
A: 季節や曜日によって変動しますので、公式サイトで最新の料金を確認するのが確実です。
ですが、ここには料金以上の価値がある「体験」と「物語」があります。
まずは一度、この壮大な舞台をあなた自身の足で歩いてみてください。
まとめ
オリンピックナショナルゴルフクラブは、単にボールを打つための場所ではありません。
世界的設計家たちの思想がぶつかり合い、雄大な自然と対話し、あなただけの物語を紡ぐための、壮大な舞台なのです。
この記事でご紹介した見所は、2万人と歩いた私の経験の、ほんの一部に過ぎません。
次にあなたがティーグラウンドに立った時、目の前の景色が、昨日までとは少しでも違って見えることを心から願っています。
あなたの次の18ホールが、忘れられない物語になりますように。